未だ見えない経済の着地点:2023年の経済を揺るがした出来事 

今年は、インフレ抑制を目的とした歴史的な利上げサイクルの真っ只中に新年を迎えました。金利上昇によるストレスは経済の転換点を予感させました。第1四半期には、銀行破綻が相次ぎ、経済システム全体への波及が危惧されました。銀行システムの動揺は景気後退懸念を煽り、それは米国のGDP成長率が鈍化したことによってさらに増幅されました。米連邦準備制度理事会(FRB)が目指し、楽観的な投資家らが期待した経済のソフトランディングの可能性は次第に低くなり始めました。  

しかし、銀行危機は収束し、消費者は持ち堪えました。物価の高騰に苦しみ、モノの消費は鈍化しましたが、消費者がモノよりも体験を選ぶようになり、サービスに対する需要が高まったことでこれは相殺されました。消費者の底力によって持ち直した結果、夏場の景気は驚くほど堅調に拡大しました。 

労働市場と経済が安定するにつれ、金利の方向性は明確ではなくなっていきました。堅調な雇用とFRBの目標である2%を超えて持続しているインフレを理由に、FRBが利上げを継続するとの見方もありました。また、停滞している住宅市場を活性化させ、金利上昇や学生ローン返済再開による家計の圧迫に対処するため、2023年末までには利下げが行われる可能性があるとの見方もありました。 

6月に利上げサイクルが初めて休止し、9月と11月にFRBが据え置きを決定したことで、利上げサイクルがピークに近づいたことが明らかになり、年後半には金利が「higher for longer(高い金利水準が長期継続)」するというシナリオが市場を牽引し始め、債券価格は大幅に下落しました。  

最近では、地政学的な大きな出来事により、短期的なマクロ経済の見方が大きく変わりました。ハマスによるイスラエル攻撃は世界に大きな衝撃を与えましたが、これまでのところ、その影響は明らかではありません。経済へ長期的な影響が及ぶかどうかは、今後紛争が拡大するかどうかにかかっています。  

年末が近づいても、今後不況が訪れるのかまたはソフトランディングとなるのか、いまだ不透明感が残ります。労働市場はこのところ低調で、景気後退の指標として一般的に信頼性が高いとされる逆イールドカーブの状態は今も続いています。とはいえ、GDP成長率は加速しており、年末商戦を迎えるにあたって明るい兆しも見えています。株式市場は最近の反落にもかかわらず、年初来で最も堅調な伸びを見せています。  

失われた経済の年になると多くの人が予測した2023年を総括すると、今年は確かにもっと悪い年になっていた可能性があるといえます。次に、経済の暴落を免れるのに一役買った2023年の主な出来事をご紹介します。 

春に起こった一連の銀行破綻 

3月10日、シリコンバレー銀行の破綻が起こりました。金利の上昇と債券価値の下落によって株価が急落し、預金の流出が起こったためです。この破綻は2年以上ぶりの銀行破綻であり、これを追うようにシグネチャー銀行も暗号通貨へのエクスポージャーが原因で預金流出に見舞われ、規制当局によって閉鎖され、3月12日に破綻に追い込まれました。クレディ・スイスの株価が3月15日に25%下落したとき、銀行システムへの世界的な波及が懸念されました。  

最終的には、大手銀行が救済に現れ、クレディ・スイスは買収され、経営難に陥った地方銀行のファースト・リパブリックも買収されました。政府は一部の銀行規制の復活と強化、緊急融資制度の創設などを検討しましたが、2008年の危機と比べてその対応は控えめでした。その一方でFRBは利上げを継続し、議論を呼びました。  

全体として、商業銀行業は3月末近くに100億ドル以上縮小しました。銀行業界の苦境が景気後退の火種になるのではないかと懸念されましが、心配された連鎖は起こらず、次のドミノが倒れることはありませんでした。  

出だしに苦戦する中国 

楽観的な投資家らは、コロナ規制から解放された2023年には中国経済が健全な状態に戻ることを期待していました。しかし、不動産問題が消費者に重くのしかかり、回復は予想よりもはるかに短かく終わりました。世界第2位の経済大国の中国が低迷したことで、中国政府は流動性を支えるために金利を引き下げるという政策行動に出ました。この支援政策は功を奏したようで、中国経済は第3四半期に力強い成長を示し、政策立案者が設定した成長目標の達成に向けて順調に推移しています。  

予想を上回った夏  

2月、3月、4月の米国GDPが予想を下回った後、米国経済は夏に活気を取り戻し始めました。GDPは予想を上回る勢いで成長し、雇用市場は回復力を示しました。ヘッドラインインフレ率は緩和し始め、多くの人が2023年後半には利下げがあるのではないかと考えるようになりました。FRBは6月、ついに利上げを休止しました。年初4%台で始まったフェデラルファンド金利(FFレート)は5月までに5%に上昇し、政策立案者はさらなる決定を下す前に金利の影響を見極めたいと考えました。経済が依然として健全なペースで成長していることから、FRBは7月に再度利上げしましたが、これが今回の利上げサイクル最後の利上げになると思われます。フェデラルファンド金利が2001年初頭以来の水準にあるにもかかわらず、経済は2%を超える成長を続け、10月にはGDPが年率換算で4.9%という驚異的な成長率を記録しました。  

債券市場に降りかかる試練  

9月、FRBが金利を現在の水準に据え置く必要があるとの見解(高い金利水準が長期継続するというシナリオ)を示したことで、債券市場は新たな現実に適応するために大きく動きました。利回りが急上昇し、債券価格が暴落したことで、金融システムのどこかに亀裂が入るのではないかという懸念がさらに高まりました。  

不幸中の幸いといえるのか、雇用統計が弱含みとなるなか、市場はやや回復しました。しかし、企業の借入コストが上昇し、投資家の株式への関心が薄れたことで、利回りの上昇が株式市場を圧迫し続けています。消費者需要も圧迫されています。2023年を通じて続いていた逆イールドカーブは最近になって縮小の動きを見せており、景気後退が近いことを示している可能性があります。金融システムは、少なくともこれまでのところはほぼ無傷で済んでいるように見えますが、急激な変動やボラティリティのリスクは依然として高いといえます。 

2024年、債券市場は2~3回の利下げを織り込んでいます。高い金利水準が長期継続するというシナリオが崩れ始めれば、新たな経済サイクルに突入することになるでしょう。そして、サイクルが変わるたびに、予期せぬ結果がもたらされ、新たな勝者と新たな敗者が生み出されます。今年はいろいろな意味で予想以上に良い年となりました。少なくとも、多くの人が懸念していた急降下してからの墜落という事態は避けられました。さて、2024年には好ましい着地点を見つけることができるのでしょうか?  

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