米国史上最大の銀行破綻4件のうち3件が今年発生: 銀行業界のリスクは過ぎ去ったのか?

銀行が破綻するのは珍しいことではありません。経済が健全な時でさえ、年に4、5行の銀行が破綻することもあります。他の業界と同様に、銀行業も常に競争圧力にさらされています。経営判断が成功につながり、銀行の利益が増大することもありますが、時にその経営判断が厳しい経済情勢と相まって損失を招くこともあります。銀行の場合、このような損失は銀行の顧客の信頼を急激に低下させ、預金の返還を求める預金者たちの取り付け騒ぎによって、銀行が一気に破綻に追い込まれる可能性があります。 

銀行破綻はよくあることですが、銀行が経済において果たす役割には、2007年から2008年にかけて起きたサブプライム危機のようなシステム上の問題に発展しないよう、しっかりとした安全策が必要です。当時、経営難に陥った銀行の中には、破綻すれば経済に壊滅的な打撃を与えるほどの大銀行もありました。FRBはこれらの銀行を直接支援するという前例のない措置を取り、「大きすぎて潰せない」という言い回しが使われるようになるほどでした。  

サブプライム危機以降、歴史的な低金利が続き、規制も緩和されてきました。2021年、2022年に破綻した銀行はひとつもありません。今年初め、ファースト・リパブリック銀行、シリコンバレー銀行(SVB)、シグネチャー銀行が破綻し、それぞれ米国史上最大の銀行破綻リストの2位から4位を占めるまでは、銀行システムは順調に推移していました。これら3つの地方銀行は、システム上の懸念を引き起こすのに十分な規模(銀行の資産は約1100億ドルから2300億ドル)でしたが、規制当局の厳しい監視を必要とするほどの規模ではありませんでした。 

今回の銀行危機を引き起こしたいくつかの深刻な経済状況は沈静化したものの、すべての経済的ストレス要因が解消されたわけではありません。最近、ムーディーズは地方銀行への逆風を警告し、USバンクとフィフスサード銀行に対する厳しい見通しを発表しました。その格下げの可能性により、銀行部門全般に対する懸念、特に今年初めに破綻したタイプの地方銀行に対する懸念が再び高まっています。  

もう危機は過ぎ去ったのでしょうか、それとも地方銀行の破綻がさらに増えることになるのでしょうか?  

マクロの視点では多くのリスクが残っている 

今年の銀行破綻の原因において共通するのは、インフレ対策としての金利引き上げです。FRB(米連邦準備制度理事会)はインフレに対処するために金利を引き上げるのが遅すぎたと言わざるを得ません。4%のインフレが短期的に終わることはほとんどないにもかかわらず、FRBはすでに4%を超えて上昇しているインフレを一過性のものと決めつけました。インフレへの対応が遅れたことで、FRBは2022年から2023年にかけて金利を着実に引き上げ、その権威を回復しなければならなくなりました。このことが、必然的に債券価格の暴落とイールドカーブの逆転を招いたのです。  

ほとんどの銀行は帳簿上の含み損に耐えられるだけの資本を備えていましたが、危惧されていたとおり、一部の銀行では準備が不足していました。景気の減速や、マネー・マーケット・ファンドのような他の商品でより魅力的なキャッシュレートが示されたことが、含み損の増加に拍車をかけました。これらの要因が預金額を減少させ、シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の経営破綻につながり、最終的にはファースト・リパブリック銀行の経営破綻を招きました。  

最近の統計を見ると、インフレは一段落したものの、依然としてFRBが目標とする2%を大幅に上回っており、インフレが穏やかな水準に戻るには予想以上に時間がかかりそうです。仮にインフレが緩やかな水準にとどまったとしても、金利はインフレ以上に高止まりを続ける必要があります。イールドカーブはしばらくの間は逆転したままとなるはずで、経済活動は抑制されるでしょう。一方、預金者は保有する現金を、マネー・マーケットや短期債券ファンドのような、利回りの良い金融商品に振り向けて運用を続けるでしょう。銀行は含み損に苦しみながらもより高い金利を支払う必要があるため、こうした状況は引き続き銀行の利ざやを圧迫することになります。  

市場は少なくとも2024年までは利下げを予想していません。一方、インフレ率が上昇し(多くの政策立案者が認識している以上にその可能性は高い)、金利を引き上げざるを得なくなった場合、債券価格への影響は銀行、特に預金額の減少に耐えられる規模や多様なバランスシートを持たない地方銀行にとっては、大きなストレスとなるでしょう。景気の減速でデフォルト(債務不履行)のリスクが高まるなか、地方銀行が依然としてリスクにさらされているのは明らかです。  

FRBは今年の銀行破綻における自らの過ちを認めており、サブプライム危機以降緩和されてきた規制の強化に改めて関心が集まっています。しかし、規制の導入には時間がかかりますが、銀行の破綻はすぐにでも起こる可能性があります。  

良い面を挙げるとすれば、今年の危機時に実施された流動性プログラムが設計通りに機能したことです。大規模な連鎖が取引先に広がることもなく、預金者は預金保険の上限額を超えていたとしても預金全額を受け取ることができました。危機は経済が好転したことで終息し、経済が軟着陸できる可能性は依然として残っています。  

しかし、軟着陸が保証されているわけではありません。今後もさまざまな事態が起こる可能性は残っており、投資家は、少なくともイールドカーブが正常化し、利ざやが拡大するまでは、銀行部門、特に地方銀行株には慎重な姿勢で臨むべきかもしれません。

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