債務上限問題の影響:勝者、敗者、そしてそれが市場にとって意味するところ

2023年1月、米国は債務上限に達し、イエレン財務長官は、債務上限を引き上げる法案が可決されるまで、財務省は米国債のデフォルト(債務不履行)を回避するための「特別措置」を開始すると発表しました。このような措置は、過去20年間に比較的よく見られるようになりました。その間、債務上限が近づくにつれてデフォルトに陥るリスクが、政治的交渉の切り札となってきました。専門家は、債務上限引き上げは歳出方針を決定するための戦術にすべきではないと主張していますが、こうした政治交渉は常態化しています。  

4月、共和党のケビン・マッカーシー下院議長は、3月まで債務上限を引き上げる法案を可決するため、気難しい共和党下院議員から十分な支持を取り付けました。この法案には、民主党の優先政策の多くを頓挫させるような歳出抑制策が含まれており、議会を通過するのに十分な支持を集めることはできませんでした。しかし、これは交渉に向けた重要な一歩となりました。 

法案可決後、民主党は「クリーンな」債務上限引き上げ法案(共和党が求めていた歳出譲歩のない法案)のみを支持するという立場を軟化させました。とにかく、土壇場でデフォルトは回避されました。一体どちらの政党が優位に立ったのでしょうか?また、この状況が市場に与える影響をどう予想すべきなのでしょうか?  

両党とも予算の譲歩には積極的ではありませんでしたが、最終的には合意成立のために双方が犠牲を払うかたちとなりました。共和党は、今回の合意では十分な歳出削減ができていないと声を上げました。逆に民主党は、共和党は十分な犠牲を払っておらず、社会的に弱い立場にある米国人に恩恵をもたらす社会プログラムの削減を目指していたと考えています。  

  

誰が勝者で、誰が敗者であったかを判断する前に、この法案の主な内容を理解することが重要です。いくつかの要点を次に示します。 

·       2025年1月までの債務上限の適用停止  

·      2024会計年度の国防費以外の歳出上限と2025年の前年比1%増の設定  

·       退役軍人医療への保護の継続  

·       食糧支援(フードスタンプ)プログラムの要件の厳格化 

·       新型コロナ救済基金の廃止   

·       内国歳入庁(IRS)予算の削減  

·       インフレ抑制法の気候変動・クリーンエネルギー規定の維持  

·       バイデン大統領の学生ローン返済凍結の解除  

これらの予算譲歩案を詳しく見てみると、妥協点は全体的にかなり公平であったようです。このシナリオでは、バイデン大統領が勝者だと考える向きもあります。それは、単に下院共和党が当初承認した厳しい削減案を回避して合意を成立させることができたからでしょう。バイデン大統領は、2020年の大統領選挙キャンペーン中に最優先事項としてアピールしていた超党派の合意を実現しました。2024年に向けた再選キャンペーンでは、間違いなくこれを大きな功績として強調するでしょう。  

  

一方、マッカーシー下院議長は勝者でもあり敗者でもあったといえるでしょう。その理由はこうです。マッカーシー下院議長は、法案を十分に削って合意に成功したことで勝者となりました。しかし、同氏は下院の支持を維持できるほど歳出抑制のために十分な強硬姿勢を堅持できたのでしょうか?交渉に臨むにあたり、マッカーシー下院議長にはより強力な手札がありましたが、それをうまく使いこなすことができませんでした。共和党の大半は予想よりも譲歩を勝ち取れなかったと見て、交渉結果を批判しました。共和党側から71人の造反がでたのも納得できます。同氏は下院議長として弱い立場に立たされています。もし十分な数の共和党員が不満を示せば、政治的影響は深刻となり、解任動議が出され、マッカーシー下院議長の立場はさらに危うくなる可能性もあります。  

もし合意に達しなければ、悲劇的なデフォルトとなり、経済は大混乱に陥ったでしょう。しかし、市場はまだはっきりとはしていません。今後数か月は、政府の財源を補うために財務省短期証券の発行が増えるでしょう。これが市場にとって現実的な懸念となるかどうかについては、センチメントは分かれています。とはいえ、これは流動性の枯渇を招き、それに対する市場の準備は整っていないかもしれません。FRBの引き締めによって銀行の準備金は目減りし、迫りくる不況に向けて資金運用者は現金をため込んでいます。米国債の借入額は年内に1兆ドルを超える可能性がありますが、それがどのような影響を及ぼすかは今は何とも言えません。いずれ答えが出るでしょう。 

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