2022年米中間選挙:次は何が起こるのか?
今年の米中間選挙は、インフレの猛威と景気後退が懸念されるなか、経済的に不安定な時期に行われました。選挙結果によってマクロ経済の問題が解決されることはないでしょう。しかし、中間選挙後の半年間の相場は、中間選挙前の半年間よりも好調となるのが普通です。株式市場は中間選挙の平均的な年としては、すでにアンダーパフォームしていますが、市場は中間選挙の結果に好意的に反応するのでしょうか、それとも不満足な反応を示すのでしょうか。あるいは、共和党の勢いが予想を下回った選挙結果は、投資家心理にはあまり影響しないのでしょうか?
歴史的に見て、大統領1期目の中間選挙では、議会で野党が優勢になることが多く、これは2022年の選挙でも同様でした。共和党は期待されていたような地滑り的勝利を収めることはできませんでしたが、下院では過半数を獲得する見込みです。一方、民主党は上院で過半数を維持していますが、ジョージア州上院選の決選投票で最終的な結果が決まります。したがって、2024年までは分割政府が続くことになります。バイデン大統領の残りの任期は大統領令による統治に委ねられることになり、永続的な改革にはつながりそうにありません。
分割政府がもたらす財政上の影響
短期的には、2022年の米中間選挙で市場が動いたり、弱気相場の流れが反転したりする可能性は低いでしょう。市場全体の方向性は、当面はインフレとFRBの利上げサイクルによって左右されることになると思われます。しかし、選挙は常に結果を伴うものであり、権力の移行がわずかでも起これば、経済に何らかの影響をもたらすはずです。
共和党が下院を奪還すれば、大きな法案や歳出法案は当面議会を通過しないと予想されます。バイデン政権は財政抑制を余儀なくされ、財政赤字と債務残高対GDP比の改善につながることが期待されるため、市場はこれを肯定的に見るかもしれません。一般的に投資家は安定を好みます。つまり、議会が膠着状態に陥れば、財政政策は変更されない可能性が高く、長期的には市場が上昇する可能性があります。
FRBの方針転換の可能性
分割政府となった結果、財政政策が縮小したり停滞したりすれば、FRBは利上げ幅を縮小する可能性があります。もしFRBが、財政政策はもはや拡張的ではなく、インフレ上昇圧力もないとして利上げサイクルを先細りさせれば、市場は一気に上昇し、もう後ろを振り返ることもないでしょう。
不況の風が吹き荒れる
一方で、景気後退の逆風も大きくなっています。2023年第2四半期から第3四半期ごろに景気後退が本格化すれば、FRBも財務省も手を縛られることになります。通常、景気後退局面では財務省かFRBのいずれかが財政介入や金融介入を行い、経済と市場を救済します。しかし、インフレが続き、政府が分割するなか、FRBも財務省も救済に乗り出す政策手段が持てない状況になり得ます。FRBがインフレと闘うには、少なくとも高い金利を維持する必要があり、共和党主導の下院は新たな歳出法案を進めることはないでしょう。
債務上限を巡る政治対立
共和党が下院を奪還し、債務上限期限が近づくと、2023年初めには債務上限を巡る政治対立が再開されることから、再び「米国政府の全面的な信頼と信用」が問われることになるでしょう。下院共和党が債務上限引き上げを人質に取り、民主党に歳出削減という身代金を要求するのはほぼ間違いありません。対象となる可能性が高いのは、メディケアや社会保障などのプログラム、そして各種の受給資格です。交渉がどの程度緊迫するかにもよりますが、期限が近づくにつれて市場、特に米国債市場のボラティリティはかなり高まるかもしれません。最近の英国債市場の乱高下のように、債券利回りが急上昇する可能性もあります。
問われるウクライナ支援
米共和党が下院を奪還すると仮定した場合、(マージョリー・テイラー・グリーン氏のような)共和党の非主流派議員の何人かは、議会はウクライナへの新たな軍事的・財政的支援を可決しないとすでに明言しています。これらの議員は、景気減速の影響に対処するために自国に資源を使う方がよいと主張しています。
米国がウクライナへの支援を打ち切ったり制限したりすれば、それは大きな打撃となり、戦況を一変させるかもしれません。ウクライナ軍はここ数か月は優勢に立ち、多くの領土を奪還し、いくつかの方面での前進を記録しています。しかし、米国が支援を打ち切れば、こうした状況は一変する可能性があります。
ロシアが勝利するようなことになれば、市場はロシアの意図や次は何をするのかと神経をとがらせることになるでしょう。それは、近い将来にロシアからのエネルギー輸入を再開できるという残された希望がほぼ確実に打ち砕かれることを意味します。
分割政府下の党派政治
・共和党の著名な下院議員の何人かは次にあげるような事案について、すでにいくつかの独自の特別委員会、調査、公聴会を立ち上げることによって、民主党に復讐するつもりであることを明らかにしています。
・共和党にとって切り札となる爆弾男、ハンター・バイデン氏の取引と影響力行使に関する調査。これはジョー・バイデン大統領にとってかなりのダメージになる可能性があります。
・アフガニスタンからの悲惨な撤退。
・ファウチ氏の武漢研究所への関与と新型コロナウイルスの出どころ。
・司法省とFBIの政治化(例えば、マール・ア・ラーゴの家宅捜索、ホワイトハウスの要請で教育委員会の会合に出席した親たちを「国内テロリスト」とレッテルを貼ったこと、ハンター・バイデン氏に対する捜査が一向に進まないことなど)。
・バイデン政権高官(マヨルカス国土安全保障長官、ガーランド司法長官)と、場合によってはバイデン大統領自身(アフガニスタン問題)の弾劾の可能性。
2024年の大統領選
中間選挙の結果は、2024年の大統領選の不確実性に拍車をかけただけでした。共和党が地滑り的勝利を収めれば、バイデン大統領の2期目の望みは絶たれる可能性がありました。民主党が上院で持ちこたえ、最悪のシナリオを回避したことで、バイデン氏は選挙からささやかな後押しを受けるかたちになりました。しかし、支持率の低さと高齢を理由に、バイデン氏の再出馬を望まない同党の党員も多いでしょう。
今回の中間選挙では、トランプ氏が推薦した候補者が300人を超え、共和党に対するトランプ氏の支配力が試される選挙となりました。ここ数か月、一部の政治評論家はトランプ氏の影響力の衰えを主張してきましたが、選挙結果は確かにある程度の衰えを示しているように見えます。
トランプ氏が中間選挙の直後に2024年の大統領選への出馬を表明すると仮定すると、市場はトランプ氏が2024年の共和党候補指名と本選挙で勝利する可能性について考えを巡らせ、少々軟調になることは間違いないでしょう。トランプ氏が再選された場合、市場はその後に起こるドラマのすべてを評価することはないかもしれません。
市場の動向
前述したように、中間選挙が市場に与える影響は長くは続かないでしょう。エネルギー部門、特に石油・ガスは、ウクライナ戦争の影響による供給不足とエネルギー価格の高騰により、今年すでに好調なパフォーマンスを見せています。共和党は二大政党の中ではより化石燃料に好意的な政党と見られているため、共和党が下院を奪還すれば、アメリカの石油・エネルギー企業の株価は上昇するかもしれません。いずれにせよ、世界的な需要動向は今後も価格を押し上げるでしょう。中国が経済活動の再開を続けるなか、原油価格は今後数か月のうち、おそらく2023年第1四半期までにはバレルあたり100ドルに戻ると予想され、これは大手の石油・エネルギー企業にとっては朗報となります。
結局のところ、パンデミック、金利上昇、ウクライナ戦争は、いずれも中間選挙よりもはるかに深刻な影響を市場に与えました。FRBの政策とインフレが主要な原動力であることに変わりはないため、ニュースの見出しには若干の変動が見られるだけでしょう。